釣り人にはきっと誰でも忘れる事の無い原風景があると思っています。
私の場合は実家のすぐ近く、小鮒やオイカワ、ハヤ等の川魚が泳ぐ小川で糸を垂らした幼いころの記憶。
父は、特に釣りが好きと言う訳でもなく、男子3人を含む4人兄弟の中でも釣りに傾注していったのは私だけ。それでも記憶を手繰るとこの小川での釣りに行き付くのです。
それは、私と父の二人だけが登場する数少ない思い出でもあります。
おぼろげとなった記憶に登場するのは、小川の直ぐ横にある農地で作業をしている父と竿を握る私。
何故か垂らしている糸にはウキがついておらず、幼い私が見つめる糸の先にはすぐ脇に生えていた蔦草の葉が結ばれている。
釣りをしているうちに無くしてしまったのか、それとも初めからウキが無かったのかは定かではありませんし、その時の釣果がどうであったかも覚えていない。
きっとボウズであったに違いないと思います。
しかし、幼い頃の私はそれでも飽きることなく流れる小川に糸を垂らし眺めていた。
そんな記憶。
今はもう、その小川で釣りをする人の姿を殆ど見かける事はなくなりました。
自分自身も中学、高校とバス釣りをするようになり、車の免許を取得してからは渓流に足を運ぶのがメインとなって、釣りから離れた期間を挟み現在に至ります。
それでも、数十年経った今、釣りの合間にふと思い出すのは、何の変哲もないあの小川でゆっくりと流れる蔦草の葉を眺めている幼い頃の自分と側で野良仕事をする父の姿なのです。
それが自分と釣との原風景なのは今も変わりありません。
工房主